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2010年11月24日 (水)

シルヴァスタイン:おおきな木 その3

・treeが女性であろうが性/genderを超越していようが、boyが「ちびっこ」であろうが「少年」のままであろうが「おとこ」になろうが、それはまあ枝葉末節。どうでもいいことかもしれない。

今回は、まさに議論の核心、以下の1行についてです。

原文
『but not really.』

本田訳
『だけど それは ほんとかな。』

村上訳
『(前略)なんてなれませんよね。』

この短い1行 − というより英語ではたったの3語だ − こそ、本田訳が論議を呼んできた部分であり、また揺るぎない名訳たり得たところでもある。
上記では敢えて確信犯的に前後のcontextを無視して示したので、未読の人には何のことやらって感じでしょうが、実はこの訳し方一つで全体の様相がまるで変わってしまいかねない。

ツルは本田訳から入ったから、原文に触れた時はそれなりに意外だったけれど、自分なりにいっぱい考えたものです。

単純な否定形の原文に比べ、本田訳はニュアンスに富んだ疑問・反語の形となっていて、ここが意訳の範疇を踏み越えてしまっていると批判を受ける所以でもあるんだけれども。
ツルには、言い切りとしないことによって読者に余韻を与え想像の余地を残したという意味で、本田訳はやはり驚嘆すべき名訳だと思う。そうとしか考えられない。
さらに言えば、直截な表現を好む英語、微妙で曖昧な表現を好む日本語といった、文化の差異というところまで考えさせられるのです。

対して村上訳はどうか。少なくとも文言上表面上はここでも原文に沿っているように受け取れる。しかし本当にそうだろうか?

唯一この訳文だけが、直接読者に問いかけてくるんですね。作者(あるいは訳者)が前に一歩踏み出した形となってるわけです。それってどうなのかなあ。
この本は、決して説明的要素の多いストーリーではありません。むしろ逆で、簡潔な文章が淡々と綴られていき、読者に全ての解釈を委ねていることは異論がないでしょう。たとえ否定形であっても、あるいはすっぱりとした断定であっても、決して読者に迫ってくるわけではない。ただ、読者が想像の翼を広げるのを誘うだけ。
これも本田訳のあとがきからの受け売りになってしまうけれど、この作品はやはりあくまで「寡黙で慎重なできばえ」なのです。そここそが哲学的でもあろう。

そこへもってきて、この訳はいささか異質に映る。ここだけトーンが違っているんですね。押しつけがましいとは言わないまでも、こちらにすり寄ってくる。読者の想像を限定するものとなっているという意味で、原文というか原本の思想や精神に忠実とは必ずしも言えないように思います。

・この部分については今でもいろいろと取り沙汰されていて、なかば周知の事実、いわば公然の秘密。しかーし!そんなこんなの議論を吹っ飛ばすような、意外な事実が一つあるんですね。

The Giving Treeは、企画物としていろんなEditionが出ている。(それだけ本国じゃ人気があるっていうか、超定番のロングセラーってことなのかも。)例えば35周年記念版(1999年)だと、ハードケース入りでクロス張り金箔押しのSlipcase Mini Editionっていう、二回りほど小さいサイズのがある。プチゴージャスな愛蔵版の雰囲気。

35th Anniversary Slipcase Mini Edition

40周年記念版(2004年)ならナレーションCDつきEditionです。しかも、なんと!作者のシルヴァスタイン自身のナレーションで(@_@)!!激レア!

40th Anniversary Edition with CD of Author's Own Narration!

実はこのCDが大問題なんすよね。この1行が入っていないのだ(@_@)(@_@)!これに気づいた時はさすがに驚愕した。一体どういうこと?!?!さまざまな論議を呼んできたこの部分が存在しないなんて!
作者がこの一文を入れるかどうか最後まで迷っていたということか?あるいはこの部分の重要性なんてあんまし気にも留めていなかったということか?
もちろん、本が出た後に削って録音したってことも考えられるのだけど、このCDは他にも少々ワーディングが異なるところがあって、それらの総合的な完成度を勘案すると、むしろ最終稿になる直前のものを吹き込んだって感じがする、詳細はわからないけど。音づくりやBGMも、なんか全体に素朴で自主録音っぽい感じでねー。グラミー賞を受賞したミュージシャンでもあった人だから、自宅でさくっと録音ぐらいのことはあったかも。
このナレーション、現在YouTubeでも見れますよ。ストーリーも原画を加工した簡単なアニメになっていて、ブルーの画面のやつです(他の色のはパロディ)。

いずれにせよ、この問題はどのように考えればよいのか、ツルもまだ答えが出せません。一般にもほとんど知られてないようだし。

ちなみにこの40th Anniversary Edition、シルヴァスタイン(1932年9月25日〜1999年5月10日)の没後に出版されたものです。こっちは通常版より一回り大きめサイズ。

え?ハイハイ、35thも40thも持ってますとも。

To be Continued, Again...

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