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2011年10月30日 (日)

嬉しいことー、その後。(最終回)

数珠丸探偵:
「・・・おわかりになりませんか、ツル代さん」

(ツル代、フランス窓から走り出てバルコニーの鉢をつぶさに調べる、やがて驚愕)

ああ、これは・・・!!

ツル代:
「ああ、これは・・・違う、違うわ・・・・・・これは、イングリッシュ・ホーリー!!!!」

数珠丸探偵:
「そうです、そのとおり。この木は黒い実のなるモクセイ科のヒイラギではなくて、赤い実をつけるモチノキ科のセイヨウヒイラギだったのですよ。泰西名画のクリスマスの場面に必ず描き込まれているあれです」

ツル代:
「わたくしの・・・罪でしたのね・・・・・・ああ!」

亀乃進男爵:
「泣かんでよか、ツル代しゃん。誰でん間違いはあるくさ」

ツル代:
「いいえ、いいえ伯父さま、そうではないの。あの降霊会の晩、月並斎さまの水占いでこの家に近々大きな星が舞い降りるという御託宣が降りた時から、わたくし、もしや父のことで何か報せがあるのではないかなどと考えていたのですわ。夜もあまり眠れなくて、明け方から空中庭園を歩き回っていましたの。
ですからあの子供が箱包を持ってきた時も、ああ御託宣の意味はこれだったのかと思ったのです。もちろん、どんな人に頼まれたのかその子を問い詰めてみましたけれど、よくわからない、痩せて背の高い上州訛りのある紳士だったと言うばかりで。父も酔った時には上州弁の春歌など放吟していたそうですし」

月並斎:
「アレはほんにエグかったでおじゃるの」

ツル代:
「あの箱には差出人の名前は何も書かれていませんでした。でも・・・やはりわたくし、あれが父からの贈り物ではないか、いいえそうであってほしい、そうに違いないと思い込んでしまったのです。わたくしの実の父、棘林柊麻呂からの」

亀乃進男爵:
「なんて、ツル代しゃん、そやけんあんたこの木がヒイラギち思うたて言うとね」

ツル代:
「ごめんなさい、伯父さま。わたくし、お父さま恋しさのあまりとんでもない過ちを犯してしまった・・・」

数珠丸探偵:
「貴女の本当の父上、棘林柊麻呂伯爵は七年前にシャムの密林で失踪されたままだ。貴女はお父さまが今も生きておられると信じていらっしゃるのですね」

亀乃進男爵:
「俺ぁ柊麻呂しゃんとは幼馴染みの大親友やった。ひいしゃん、かめしゃんて呼び合うてから。妹の百々千世もあいつに惚れとったとやが、親の決めた縁談で玉之裏の家に嫁いでしもうたとよ。ばってんそん時にゃもうツル代しゃん、あんたば身籠っとった。あんたば産んでから産後の肥立ちが悪うてとうとう亡うなってしもうたが。柊麻呂しゃんとの仲を引き裂かれてしもうたこつもいかんやったろう」

ツル代:
「そのあと亀乃進伯父さまに引き取っていただいて、今日まで実の娘同様に育てていただいたのに・・・」

亀乃進男爵:
「うんにゃあ、あんただんだん柊麻呂しゃんに面差しが似てきよる、血は争えんもんばい。
ばってんが金田一しぇんしぇい、あれがヒイラギじゃなかてどげんして気がつきんしゃったとですか」

数珠丸探偵:
「初めに妙だと思ったのは、いくら若木とは言え、この時季に一つも蕾をつけていなかったことです。モクセイ科のヒイラギなら秋遅くから冬の初めにかけて花を咲かせますからね。これが姿の似ているモチノキ科のヒイラギモチ、またの名をシナヒイラギやセイヨウヒイラギと呼ばれる植物ならば、花の咲くのは初夏ですから今蕾がなくてもおかしくない」

亀乃進男爵:
「ばってん金田一先生、シナヒイラギいうたらちぃと葉っぱの形が違うとりまっしょうが」

数珠丸探偵:
「そげんです、ああいや、そうなのです。シナヒイラギつまりChinese Hollyならば葉の棘が少ないからすぐに見分けがつく。けれどもEnglish Hollyにはヒイラギと見分けがつかないほどよく似た葉を持つものがあるのですよ。狡猾な犯人はそこまで計算に入れていたのです」

亀乃進男爵:
「ほー、とつけむなか。ふてぇがってぇどうじゃろかい」

ツル代:
「わたくし今気づいたのですけれど、他にも違うところがありますわ。ヒイラギの葉なら対生のはずなのに、この木は互生になっていましてよ。モチノキも確かに互生だわ」

互生か、対生か・・・??

亀乃進男爵:
「ツル代しゃん、あんたよう気のついたなあ」

ツル代:
「だって伯父さま、博多のお屋敷にヒイラギもクロガネモチもあるのですもの、それは剪定のたびに気がついてました。だのにわたくしあの時はすっかりとりのぼせてしまって、ちっとも気が回らなくて。恥ずかしいわ」

数珠丸探偵:
「いやいやそれも貴女の日頃の精進の賜物ですよ、ツル代さん」

世界坊和尚:
「じゃが金田一さん、儂にはまだわからんことがある。犯人はなぜこんな真似を」

数珠丸探偵:
「そこなのです。薮椿男爵、あなたは南方のコレクションの中に珍しい三尺芭蕉の木をお持ちですね」

亀乃進男爵:
「おう、あん太か木ですか。ありゃあ俺が南洋貿易で儲けた時にシャムの王さんから拝領したよかバナナですタイ」

数珠丸探偵:
「思うに犯人はこの門外不出の珍宝を狙っていたのではないかと」

世界坊和尚:
「金田一さん、そりゃ一体どういうことじゃな」

紅緒:
「あァら、そんなの簡単よ。この空中庭園もそんなに広くはないんだし、新しい鉢植えがたくさん入ってくればどれか他のを手放さなきゃなんないでしょ?そうなりゃ図体の大きいバナナなんて真っ先にお払い箱だわよ。まさに犯人の思う壺ってわけね」

数珠丸探偵:
「ご明答です。大洪水でいまやタイ国からのバナナの輸入も止まったままですし」

世界坊和尚:
「何とまあ手の込んだというか、馬鹿馬鹿しいというか、いやはや南無三千大世界」

数珠丸探偵:
「ここは一つ株を殖やしてオークションで売って酒代にでもしてやろうかい、などと考えたのかもしれません」

葵:
「ツル代お姉ちゃん、この木は結局」
菫:
「モチノキの仲間なのでしょ」

ツル代:
「ええ、そうなのよ」

葵:
「だったらよかったじゃない」
菫:
「ツル代お姉ちゃんのお母さんの名前に」
葵・菫:
「モチって言葉も入ってるわ」

ツル代:
「ええっ!?・・・玉之裏百々千世・・・まあ!!」

葵・菫:
「ほうらね、うふふふ」

ツル代:
「金田一先生、亀乃進伯父さま、わたくしこの木を心を込めて育てますわ、お父さまともお母さまとも思って。いつの日か輝く赤い実をつけるまで、冬もお部屋の中に取り込んで」

亀乃進男爵:
「おうツル代しゃん、そいがよかよか。ばってんあんたも草木ばっかし面倒見よらんと、よか人見つけにゃ行き遅るるばい、ガハハハ」

ツル代:
「まあ、いやな伯父さま!」

(一同の笑い声、空中庭園に響き渡る)

−大団円−
----------

ああ、ツルってヒマ人・・・(自爆)てか、これで正解外してたら超ハズいっす、つうよりただのバカっすね(*_*)

ちなみに、You-tubeで;
映画「犬神家の一族」サントラのメインテーマ「愛のバラード」by大野雄二(できれば1976年版ね)、
あるいはTVの「横溝正史シリーズ」の主題歌「まぼろしの人」by茶木みやこ(予告編映像つき!京マチ子の表情がエロい!)
を視聴してからお読みいただくと、雰囲気が出ますです。

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