3009年新春幻想 ―― 暦の物語【FINAL Version】
【2020.01.01 改稿】
3009年巳年,人族は既に万物の霊長the Lord of Creationたる地位から追われて久しく,十二支卿紫微垣に会して評定Conclaveを重ねた末,藍青の惑星Earthの新たな統治者は遂にコルカタの一匹の巨きな帽蛇Cobraと極った.
帝蛇厳かに宣して曰く
「余の年に因み新たな暦を定めようと念ずるが,如何なるものがよいであろう」
① 牛:まず答えたのはアスワンの女占星師Astrologist
「365日を冬,春,雨,夏,秋,乾の6季60日に分け,一季を上下の二月に分けるのでございます.残り5日は冬を除く季節ごと1日ずつ配して祭日に.冬季には畏れながら陛下蟄居冬眠Confinement and Hibernationに在らせられますゆえ」
と老いた巫女は恭しく奏上した.
② 馬:ハイデルベルクの識者Authorityは理詰めに説いた
「全ての月の日数を固定して,7×4×13=364日と定める方が社会合理性に適っております,なにしろ毎月同じ曜日から始まるのですから.残り1日は年末に置いて13月29日とすればこれにも響かぬかと」
③ 鼠:野辺山のアマチュア天文家Stargazerは
「黄道十二宮Zodiacも十三宮とするのだろうか,蛇遣い座Ophiuchusが加わればあの蠱毒も弱まろうものを・・・」
などと不謹慎な思いを巡らせた・・・が,大蛇の一睨を懼れて黙っていた.
④ 犬:シカゴのビジネスマンTricksterはプレゼンに力を込めた
「Ladies and gentlemen, 分割しにくい13では経済に大混乱を招きます.The best way IS, 四半期ごとの最後の月に1日ずつ加えることです.残りの1日は,陛下が目覚められる啓蟄の日を当てて,特別な祝日としようではありませんか!30×12+4+1=365日,これこそグローバルスタンダードThis is THE American Standard!!」
これが採られれば爵位の授与も と恃むところ大,米国民の常として貴族階級Aristcratには弱かったのである.
⑤ 鳥:既に国土を喪失し流浪の身Vagabondとなった南洋の美女は眼を瞑り羽を震わせ囁くように歌った
「楽土など要らないの 海と風と虹さえあれば だけどあの樹は返して
暦など要らないわ 太陽と月と星さえあれば けれどあの人を返して」
⑥ 猪:「そうだとも,それに強い酒Aqvavitも要るがな」
海賊Vikingの血を引く極北の船乗りも頑丈な拳を振り上げた.生来頭脳を働かすことなど苦手,その上美女に心奪われて暦どころではなかったのだが.
⑦ 虎:デリーの技術者Engineerはおずおずと
「そんなことより僕は,閏秒Leap secondを廃止してほしいんです.超超高度情報化社会でランダムに1秒を挿入するなどリスクが高過ぎる」
と述べた.
⑧ 羊:一方ジュネーブの機巧名人Clock Meisterは
「閏年は400年間に97回置かねばならん.どこにどう入れるんです」
と眉根を寄せた,完成間近い夢の万年時計の設計変更ばかりが気になって.
⑨ 龍:長安の天文博士Astronomerは
「そもそも冬至日Solstizio d'Inverno則ちグレゴリオ暦Calendario Gregoriano12月22日を元日となすのが宜しかろう.冬極まって一陽来復,天主教の降誕祭もこの考えを引いておるのですぞ」
と博識を披露した.実は次の帝位を窺い,蛇が眠りに落ちる大晦日から啓蟄までを長くするよう企んでいたので.
⑩ 兎:ミラノのデザイナーも同調した
「そうね,それなら陛下にもゆっくりご休養いただけるし」
高価な革細工に欠かせぬ美しい蛇族を捕獲するにはその動きの鈍る冬眠中が都合よく,こちらは猟期が延びることを歓迎したのである.
⑪ 猫:しかしブエノスアイレスの娼婦Streetgirlが
「あたしの国の1月Eneroは夏の真っ盛り,冬眠だの啓蟄だのお笑い種だわ.街に出ていればわかること」
と言い放つと一同は静まり返った.皇帝となった蛇に代わり,虎の推挙で十二卿入りした(無論鼠は猛反対したが)この新参者は,真っ当かつ奔放な言動の数々で周囲を振り回すのが常であった.
⑫ 猿:どさくさに紛れて平壌の労働者Slaveは
「冬至啓蟄はどうであれ,いっそ一週を6日,一月を5週にして下さい.何なら一週5日の一月6週間でも」
と平伏した.怜にして怠,これならば週休1日の己にもいささか利するところ多しと識っての算段であった.
議論は果てしなく続いた.しかし憐れな皇帝と十二諸卿はすっかり忘れていたのである.既に気候変動は進行し,蛇族Serpentesひいてはその他の爬蟲族Reptilia,さらには両棲族Amphibia,鳥族Aves,哺乳族Mammalia,果ては無脊椎族Invertebrataに至るまで,真冬の眠りを貪る者など疾うにいなくなっていたことを・・・
― Inspired by「鳥の物語」by 中 勘助(1885.05.22〜1965.05.03)―
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