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2013年1月24日 (木)

A社に聞くインサイダー取引防止への取り組み:下

―強化策の効果は出てきていますか。

ツル:はい。特に「情報管理」という面ですね。例えば,社内の重要会議体のはじめに「重要事実に該当する内容を含むから十分留意せよ」といった注意喚起をするようになりましたし,重要事実が生じやすい戦略部門や広報部門などから問い合わせを受けることも増えてきました。内々に「実は今度こういうプロジェクトがある。これはインサイダー規制に係るような案件なのか」と聞かれます。
あらかじめそういった部門には東証の適時開示ガイドブックなどを渡してあるものですから,自分たちで軽微基準を計算して,「今回は金額が小さいので,問題はないと思うがどうか」というところまでまとめて来てくれます。このあたりの意識が社内で強くなってきたと感じるところです。

―先ほどのお話からも出てきた役員,従業員への意識付けという点に関して,個々人のコンプライアンス意識を高めるために,重視していることがあれば教えてください。

ツル:私自身意識を変えましたのは,性善説でなくて性悪説に立って進めていかなければいけないということです。つまり,「悪心を起こさせない」という観点ですね。普通,どこの会社でも社則というものは基本的に性善説に立っていると思います。例えば,「12月になるとお酒を飲む機会も増えるけれど,飲酒運転禁止のルールは必ず守りなさい」というのが普通の考え方で,「君は飲酒運転するだろうから,12月になったら車の運転は公私とも全面的に禁止します」ではないでしょう。
ところが,インサイダー取引防止はこれでは不十分なのですね。しかもこの規制はちょっと特殊で,会社の規則でありながら24時間人を縛るのです。勤務時間外に家族に内部情報を話してもダメ,マンションを買う頭金にするために自社株を売ってもダメとうたっているのです。
したがって,3月31日に決算期が締まる,そうしたら,その翌日から5月の決算発表日までの期間は売買全面禁止としたのです。金商法以上のところまで規制するのですから,初めは社内から不満の声もなかったわけではありません。しかし,これはもう会社の規則としてきちんと決めたことですから,そこは徹底しています。


金融機関と事業会社

―金融機関に比べて事業会社の方は,インサイダーに対する意識が弱いように感じますが,その点はどうお考えでしょうか。

ツル:金融機関と事業会社を比較して,事業会社のほうがガバナンス,コンプライアンスが弱いと一概に言うことには多少違和感を覚えます。
つまり,金融機関やマスメディアなどは,お金とか情報を相手に仕事をしていく上での職業倫理が大事であるという業界であって,そこはインサイダー取引規制の領域とそっくり重なるわけです。
一方,事業会社には事業会社のコンプライアンスのあり方があります。メーカーだったらものづくりにおける職業倫理をまず持たなければいけない。そして,これとはちょっと違う領域だけれども,インサイダー規制といった倫理もまた当然守らなければならない,そこを意識する必要があると思います。ですから,事業会社が金融機関と同じような考え方で仕組みを作れば優れたガバナンス,コンプライアンスがすぐ実現できるのかといったら,少し違うように感じます。


実務上の悩み

―ツル様が感じる実務上の悩み,もどかしさというものがあれば教えてください。

ツル:これはいろいろありますね。
例えば,金商法の内部者取引規制と,証券取引所の適時開示規則は似ているようで趣旨も内容も違います。災害による損害が発生した場合,純資産への影響度合いに加えて,取引所の規則では経常利益や純利益についても基準があって,より厳しくなっているといったものです。そこはきちんと管理しなければなりません。
それから,海外子会社へのグループ規程の適用ということもあります。日本の金商法は海外の従業員には及ばないでしょうが,インサイダー取引をしてはならないのは世界中どこのマーケットでも同じですし,当社のグループ規程は海外子会社にも適用があって,英訳版もあるのです。グローバルに事業展開している会社さんであればどこでも,ここは真剣に考えなければいけない問題でしょう。
もう一つは,インサイダー規制が,不作為のインサイダー取引を防止できるような法令にはなっていないという点です。
公表されたら必ず株価が上がるだろうという未公表の内部情報があるとして,それを知って,株式を買い付ける行為はもちろん禁じられています。ところが逆に,今持っている株式を売るのを少し延期して,公表されてから売るのであれば不問です。市場へのアクセスの平等という観点から言えば社員の立場を不当に利用した違法な取引のはずですが,これについてはどう考えたらよいのか。法令上仕方がないことですが,真面目に考えるともどかしいところです。
そこはもう,「心にやましいことをしてはいけない」というコンプライアンス意識を地道に植えつけていくしかないのでしょう。


体制整備の重要性

―最後に,事業会社におけるインサイダー取引防止や体制整備の重要性につきまして,改めてコメントをお願いします。

ツル:やはりインサイダー取引は絶対にあってはならないことです。企業の使命は,商品やサービスを提供することだけではありません。安心して株式を持って頂く,取引して頂くということも同じように大切なことです。そのことを肝に銘じながらコンプライアンスの強化に取り組んでいく,それしかないように思っています。

―ありがとうございました。

(2012年11月28日 A社本社にて)

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