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2014年10月27日 (月)

そして想いは再び屋島へ

(承前)

扇の的のエピソードにはやや長めの前置きがありまして。

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今日は日暮れぬ、勝負を決すべからずとて引き退く処に、ここに沖の方より尋常に飾つたる小舟一艘汀へ向かひて漕ぎ寄せさせ、渚より七八段ばかりにもなりしかば舟を横様に成す。あれはいかにと見るほどに、舟の内より年の齢十八九ばかりなる女房の柳の五衣に紅の袴着たるが、皆紅の扇の日出だいたるを舟の脊櫂[せがひ]に挟み立て陸へ向かつてぞ招きける。
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スゴいですねー、敵方の軍船に妙齢の美女が正装して乗り込んで手招きしてんですよ。違う意味でこれも戦闘服。源氏の大将殿が近衆に尋ねます。

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判官、後藤兵衛実基を召して「あれはいかに」と宣へば「射よとにこそ候ふめれ。但し大将軍の矢面に進んで傾城を御覧ぜられん処を手練れに狙うて射落せとの謀と存じ候へ。さりながらも扇をば射させらるべうもや候ふらん」と申しければ、判官「御方[みかた]に射つべき仁は誰かある」と宣へば「上手共多う候ふ中に下野国の住人那須太郎資高が子に与一宗高こそ小兵では候へども手は利いて候ふ」と申す。判官「証拠いかに」と宣へば「さん候ふ。翔鳥などを争うて三つに二つは必ず射落し候ふ」と申しければ、判官「さらば与一召せ」とて召されけり。
与一その比は未だ二十ばかりの男なり。褐[かち]に赤地の錦を以て衽[おほくみ]端袖彩へたる[いろへたる]直垂に萌黄威の鎧着て足白の太刀を帯き、二十四差いたる切斑の矢負ひ薄切斑に鷹の羽割り合はせて矧いだりけるぬた目の鏑をぞ差し添へたる。滋籐(しげとう)の弓脇に挟み甲をば脱ぎ高紐に懸け判官の御前に畏る。
判官「いかに宗高あの扇の真中射て敵に見物せさせよかし」と宣へば、与一「仕つとも存じ候はず。これを射損ずるほどならば長き御方の御弓箭の瑕にて候ふべし。一定仕らうずる仁に仰せ付けらるべうもや候ふらん」と申しければ、判官大きに怒つて「今度鎌倉を立つて西国へ赴かんずる者共は皆義経が命を背くべからず。それに少しも子細を存ぜん殿原はこれより疾う疾う鎌倉へ帰らるべし」とぞ宣ひける。与一「重ねて辞せば悪しかりなん」とや思ひけん、「さ候はば外れんをば知り候ふまじ御諚で候へば仕つてこそ見候はめ」とて御前を罷り立ち、黒き馬の太う逞しきに小房の鞦[しりがい]懸け丸海鞘[まろぼや]摺つたる金覆輪の鞍置いてぞ乗つたりける。弓取り直し手綱掻い繰つて汀へ向いてぞ歩ませける。御方の兵共、与一が後ろを遥かに見送りて「一定この若者仕つつべう存じ候ふ」と申しければ、判官世にも頼もしげにぞ見給ひける。
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この年若き射手は、一旦要請を断って義経の怒りを買っているんですね。その分プレッシャーに耐えて見事面目を施すという伏線になっていて、効果もばっちりです。軍記物独特の丹念な装束の描写もこれまた重厚華麗。琵琶法師の語りどころ、聴かせどころだったんだろう。

この後、射抜かれた日輪の扇の段はこんな挿話で締めくくられる。

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あまり感に堪へずと思しくて平家の方より年の齢五十ばかりなる男の黒革威の鎧着たるが、白柄の長刀杖につき扇立てたる所に立ちて舞ひ締めたり。伊勢三郎義盛、与一が後ろに歩ませ寄せて「御諚であるぞ、これをもまた仕れ」と云ひければ、与一今度は中差取つて番ひよつ引いて舞ひ澄ましたる男の真只中をひやうつばと射て舟底へ真倒に射倒す。「ああ射たり」と云ふ人もあり、嫌々「情なし」と云ふ者も多かりけり。
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初めに射たのは鏑矢で、殺傷能力に乏しい鳴り物の合図矢。今度は箙の中に差してあった、鋭い鏃のついた戦闘用の矢。
典雅に見えても、そこはやっぱり死を賭した戦場だったわけです。

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