愛のバラード(犬神家の一族より)
昭和なお話、もう少し。
犬神家の一族でもう一つ印象的なのは、音楽でしょう。「愛のバラード」と題されたメインテーマは今でも時々テレビのバラエティ番組のちょっと怖いシーンで使われたりしている。前半は確かに横溝ミステリーの世界観にふさわしい「陰」のイメージだけど、後半には素晴らしく美しいメロディが広がります。サワリの部分の大正琴みたいな音色はシタールだと長く思っていたんですが、ダルシマーという近縁の楽器だそうな。
スコアを書いたのは大野雄二(1941.05.30〜)。流麗なオーケストレーションを書かせたらこの人の右に出る者はいないと思う。「ルパン三世」あたりが有名かと思いますが、ツル的には手塚治虫(1928.11.03〜1989.02.09)のTVアニメ「100万年地球の旅 バンダーブック」の音楽が一番好き。1978年8月27日、日本テレビの24時間テレビ「愛は地球を救う」第1回の中で放送された長編作品です。
いわゆるチャリティテレソンでアニメを使うことには局内に反対もあったらしいけど(当時アニメは所詮子どもの見るものだったわけで)、蓋を開けてみると同番組で最高の28%という視聴率を記録した。しかも放映は午後10時〜12時という時間帯だったにもかかわらず。内容も「愛は地球を救う」の精神を最もよく表していると高く評された。まだ「サライ」ができたり、マラソンやったりするようになる前です、もちろん。
バンダーブックの音楽は番組全体のBGMにも用いられていて、その一晩(or 24時間)の記憶は高校1年の残り少ない夏休みを過ごしていたツルの心に強く長く刻まれました。(大人になった後、これまたDVDを買っちゃってたりなんかする)
おっと。のっけから脱線脱線。
実は、この「愛のバラード」にはボーカル入りバージョンがあるんです(!!)。ジャズ/フュージョンの大野による曲に歌謡曲の作詞家山口洋子(1937.05.10〜2014.09.06)が詞をつけ、シャンソンの金子由香利が歌ったという超異色版。映画公開に合わせて作られたのではないかと思うけど、詳細はわかりません。こんな珍品があるなんて、ツルも数年前に知ったばかり。
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愛のバラード
作詞:山口洋子
作曲:大野雄二
歌: 金子由香利
死んではいけないと 風が今日もささやく
水に映える白い花が 胸に沁みるけど
耐えて生きることも 辛くないの私は
あなたの名前呼べば何も 怖くないから
涙さえ燃えている 光のさざなみ
愛を感じているから 砂の音も愛おしい
死んではいけないと 長い夜も私は
あなたの名前呼んで 朝を待つでしょう
涙さえ燃えている 光のさざなみ
愛を信じているから 鳥の影も愛おしい
ひとりどこにいても そこに見える優しい
あなたの名前呼んで 明日を待つでしょう
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うーん、よくできている(笑)。松子夫人の心境とも、珠世のそれとも取れるような歌詞になってるんですね。当時才媛の名をほしいままにしていた山口の才気が光る。
この金子版はYouTubeに2点ほど載っていて、いずれも映画同様、黒地画面に大きな白抜き文字で歌詞が現れてくるところがニヤリとさせます。エヴァンゲリオンじゃないのよ(笑)。
なお、この曲のオリジナル版は映画の中で冒頭のタイトルバック以降、キャストやスタッフのクレジットが表示されるところに使われてますが、結構ズタズタにカットされていて、長ーい秀逸なイントロも全部なくなっているし、サワリの部分も相当削られている。サビの盛り上がりのところでうまく石坂浩二や島田陽子の名前がどーんと出てくるようにしたのだろうけれど、これに不満を持った大野は次回作「悪魔の手毬唄」以降、市川作品の音楽を担当することはなかった(翌1977年には「人間の証明」、1978年には「野生の証明」と、初期角川映画3作の音楽を書いているけれど)。
一方、2006年に映画がリメイクされた際には谷川賢作(詩人谷川俊太郎の子)が音楽をつけたけど、このメインテーマだけはほぼ踏襲され再び使用された。それだけインパクトの強い曲だったと言えるでしょう。
この作品、YouTubeに出ている1976年版映画の予告編(の後半)には本編で削られたイントロ部分が一部使われてますが、機会があればオリジナルを是非完全なフルバージョンで聴かれることをお勧めします(サントラ盤も出てます)。「映画音楽」として完成された日本で最初の作品、流麗の一言。
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