【特別編】シンポジウム「地域おこしとキャラクター文化」について
既に随分な旧聞に属しますが、2年前の今日すなわち2015.01.24(土)、さるところで「地域おこしとキャラクター文化 〜次のくまモンは生み出せるか〜」と題したシンポジウムが開かれていた。
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開会あいさつ
紺渡弘幸(仁愛大学人間学部コミュニケーション学科 学科長)
講演「地域おこしとキャラクター文化」
伊藤 剛(東京工芸大学芸術学部マンガ学科 准教授)
報告「きくりんの取り組み」
清水健太(越前市役所商業・観光振興課)
報告「仁愛戦隊コムレンジャー登場! ―学科キャラクター制作と実践を通じて見えてきた「キャラづくり」の困難と可能性―」
ポピュラー文化研究会(仁愛大学人間学部コミュニケーション学科 学生有志)
討論会
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以下はキーノートスピーチの部分的抜粋である。
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〔前略〕
一方で、くり返しますが、ゆるキャラが出てきて、ゆるキャラ面白いね、珍しいねっていう時代はとうに過ぎてしまっているわけです。そこで、キャラの「飽和」という現状をもう少し見ておきましょう。
まず、図像としてひじょうに似通ったスタイルのキャラがほうぼうの自治体などで採用されてしまっているという事態です。あるいは、近接する自治体で、同一キャラ、モチーフのキャラの乱立、いったようなことも起こっている。
次に、いわゆる「塩崎さんキャラ問題」というのがあります。
どなたか個人の方がツイートでおまとめになったものからの引用で見てもらっていますが、塩崎あゆ美、塩崎まさよ、福添あゆみ、ほかにあといくつか名義があるみたいなんですけど、その「塩崎さんファミリー」「塩崎デザイン事務所」とネットで呼ばれている一群の採用作品です。まあ、見てもらえばすぐわかると思いますが、ほとんど一緒なんですね。ここにあるだけじゃなく、神奈川県海老名市の「えび〜にゃ」なども「塩崎キャラ」と言われているし、千葉県白子町の「げんき君」もよく似ている。
自治体がキャラを制定するときには、デザインの公募を行い、集まった候補から住民投票で人気があったものに決めるという手順が一般的です。ところが、このやり方だと、「塩崎さんキャラ」ってたぶん落とせないんですよ。普通にかわいいので、人気投票で選ぶと入ってしまう。逆にいえば、落とすだけの積極的な理由を見出しにくい。しかも塩崎さんは、どうも大阪でデザイナーをやってる方で、家族らしいんですけれども、正しく公募方法にのっとってエントリーしてるだけなので、フェアなんですね。この人は何も悪いことをしていないわけです。
今日、この大学に来る途中、駅前のスーパー、プラザ武生に寄ってお茶などを買ってきたんですけど、そこに「塩崎さん様式」のキャラがいたんですよ。
で、その場で検索して、プラザ武生が平和堂という彦根に本社のあるスーパーだということを調べたんですけど、すごい因果だと思いましたよね。
店内入って、うわ、いきなり塩崎さん様式おるわみたいな感じで(笑)。「塩崎さん様式」、「様式」と言う言い方ってそんなにされていないと思うんですが、もはや本当に塩崎さんファミリーの手によるものかわからないんですよね。しかし共通する特徴ははっきりある。であれば「様式」と呼ぶべきだろうと。
具体的には、まず顔が横長の楕円で下のほうに目がある。それから手は両側に開いているか、前に出して何か指さしている。それから足の片っぽが前に出ている……というものなんですよね。「塩崎さん様式」っていう言い方、僕しかしてないと思うんですけども、これほんとにそうなんですね。
あとそうそう。「塩崎さん様式」で重要な要素を忘れてました。頭に名産をかぶるっていうのですね。場合によっては岸和田みたいに「きしわだ」って書いてあるとか、字とかマークが入る。でもこれ、自治体的には過不足なく要素を満たしてくれているという言い方もできるわけです。だから塩崎さんキャラを「自治体が同じようなキャラばかり採用してけしからん・なげかわしい」と言って糾弾するのは、すでに不毛なように思います。「様式」と呼ぶのは、これをポジティヴにとらえることもできる中立的な視点を持っていたいからなんですね。
〔後略〕
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そうだろうか。
あらゆる意味で「正しく公募方法にのっとって」と言えるのか。
類似調査に限界があることを知った上でのリサイクルキャラ、リサイクルロゴの制作ではないのか。
別名義の存在は一人1点の応募制限がある時にその抜け道として使われているものではないのか。
それらを「この人は何も悪いことをしていない」と自信を持って言えるのか。
制定/運営側の欲求を満たしていれば及第点がつけられるものなのか。
てんこ盛りのデザインは単なる内輪受けの独りよがりで、実は外部への発信力(言い換えれば「経済効果」である)は弱いのではないか。
諸々の批判を「不毛」の一言で片付けることは、ツルにはできない。
仁愛大学は仏教系(浄土真宗)の学校。東京工芸大学は小西写真専門学校をルーツに持つところで、2007年4月にマンガ学科を設置している。ゆるキャラを好き・嫌いという点は人により様々だろうけれども、スピーカーの伊藤は多分「大好き」で、たいていの人は「好き」「まあ好き」、一方ツルは逆なわけですね💦💦。
伊藤は「中立的な視点」が具体的にどんなものであるかというところにまでは立ち入っていない(この後は、みうらじゅんの功績やキャラ乱立といったありがちな話に移っていく)。しかし、どう控え目に言っても、おらがご当地のこのキャラとあのご当地のあのキャラがそっくりなのは心情的にヤだという人は永遠にいなくならないと思いますよ。上記の論はそこから逃げている。
越前市役所の職員や「ポピュラー文化研究会」の学生らの報告も、「地域おこし」とは謳いながらキャラ制作/運営の苦労話を超えるものではなかった。
2015年1月と言えばゆるキャラが今よりなんぼか元気だった時分の話(最後の光芒とも言えようが)。光陰誠に矢の如し、2年の月日はあまりに早い。つまりはとにかく「あんなのを作りたい」だったわけですね当時はまだ。そこを学生の若気の至りとして大目に見る気もツルはさらさらないが(このことはいつかまた必ずぶった斬ります)。
〔参考〕
海老名市「えび〜にゃ」 → 2013.08.24「PNまつり 第4弾」
白子町「げんき君」 → 2016.03.09「海の匂いのする野郎、火傷するほど熱い奴」
平和堂「はとっぴー」 → 2016.09.09「軍港と平和」
岸和田市「ちきりくん」 → 2013.04.06【その31】
〔出典〕
2014年度 仁愛大学人間学部コミュニケーション学科
シンポジウム「地域おこしとキャラクター文化」報告書
発行 2015年3月31日
発行者 仁愛大学人間学部コミュニケーション学科
〒915-8586 福井県越前市大手町3-1-1
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