【誤植編の蛇足】校正まだまだ畏るべし
(承前)
cf.
2012.02.11「あ、今日は母親の命日だ。」
誤植や校正ミスの問題については、ツルもシゴトの上で似たような経験があって、全社員に宛てたメールの「インサイダー取引防止教育を実施します」という見出しを危うく「インサイダー取引教育を実施します」としそうになったことがある。すっごく微妙、でも株式担当者としては決してゆるがせにできないところネ(大汗)。
そもそもツルがこの問題に関心を持つようになったのは、昭和四十九年(1974年)、小学校6年だった時、母親が句集を出版することになって(九州の現代俳句の同人誌「自鳴鐘」の問程叢書第五輯だった)、父親もそれを手伝って校正をしていたから。だからその時、次の本も薦められて読んでいた。
「本と校正」
長谷川鑛平
中公新書
1965年刊
半世紀前、鉛の活字を組んでいた時代の本なのでさすがに内容が古いです。けれども、社会人になって株式業務だの情報開示業務だのを担当するようになって、正確でミスのない文書(印刷物を含め)を作成することが職務上の絶対条件となるに及んで、何度か読み直した。時代を超えて、知的刺激あふれる稀書にして名著です。
エピソードも満載で、『森鴎外はよほど腹に据えかねることがあったか、「鸚鵡石」で校正子のことをボロクソに書いている』とか『与謝野晶子は子福者であったが、ある時「お腹を痛めて産んだ我が子」を「お股を痛めて産んだ我が子」と誤植されて赤面を強いられなさった』とか『石原慎太郎は極めて悪筆で、どこの出版者にも専門の解読家がいた』なんてのを思い出す。
虹二重双生児のわれら誰から死ぬ 京子(昭和二十八年)
今は猟夫(さつを)の夫に言葉を殺し蹤く 京子(昭和三十三年)
黒き凧見つけて天に歩み寄る 京子(昭和三十三年)
逝く春や子の粥一匙ずつ冷ます 京子(昭和三十九年)
藤昏るる砂場は酷使されしまま 京子(昭和四十三年)
父親は旧制中学だの旧制高校だの海軍だのの同窓会あれこれの幹事をやるのがえらく好きだったので、何百ページの分厚い会員名簿の編纂やら会報発行やら何やらにもあれこれ関わって「印刷物」を作ることに縁があり、よく「校正畏るべし」と言ってたっけ。一番覚えているのは、『会員名簿のゲラ校正を全頁終えてヤレヤレとほっと一息つき、さて印刷所に持っていこうとして何の気なしに一番最初の頁に目を落としたら、背表紙の文字が「会員名簿」ではなく「会名員簿」になっていることに気づいてゾッとした』という話。あまりに大き過ぎて誰の目もすり抜けていたというわけです。
ツルはちょうどその頃読んだエドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」のことを思い出して、ああほんとにそんなことってあるんだと面白く感じた。
それから約十年の後、昭和六十年(1985年)に母親の第二句集(遺句集でもあった)を出した時には、ツルも多少手伝いました。
蛇展の玻璃に晩夏の指紋殖ゆ 京子(昭和四十九年)
秘密の樹持つ少年に冬夕焼 京子(昭和五十年)
鶴発ちて一糸まとわぬ天残る 京子(昭和五十三年)
氷砂糖すぐ噛み砕く少年期 京子(昭和五十四年)
遠き闇の蛍ひからす子の手紙 京子(昭和五十六年)
因みに、「逝く春や」の句(第十二回全国女流俳句大会で二席に入った句らしい。これが!?である)には1歳頃の、「冬夕焼」には中学生の、「氷砂糖」には高校生の、「遠き闇」には大学に進学した年のツルが閉じ込められている。友人と二人で実家近くの神社の裏山から掘り採ってきた秘密の樹、ヤブニッケイ/Cinnamomum japonicum(最近は "yabunikkei" の種小名を使うらしい^^;)は、今でも実家の地上庭園@博多にある。洛東の疎水沿いの哲学の道は桜の名所として知られるけれど、それから二月もすると蛍が出ます。
で、その後、父親も同じ同人に入って俳句を始めちゃった。こっちは句集出すようなレベルにはとても達しませんでしたが(お父さんごめんなさい)。
風花やマリアの像の憂いおび 健一(平成七年)
水仙咲く隣の人は去りしまま 健一(平成十年)
老桜は散り初む鷺は悠然と 健一(平成十年)
あじさいの咲き初む色のなき如く 健一(平成十年)
明月を隠して薄き雲流る 健一(平成十年)
あ、雪月花ばかりになりにけり。
というわけで、今日は父親の丸20年目の祥月命日。もうそんなにも過ぎてしまったか。ツルも母親の享年は越えてしまったし。
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