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2019年9月15日 (日)

似て非なるもの - ズワイガニ vs タラバガニ vs ケガニ:一杯目

このところ【似て非なるもの】で食のネタを取り上げてるつながりで、今回は豪華食材の饗宴とまいります。カニ三昧の大ネタ(でも生物学的興味が中心、悪しからず。風味の違いなんてネット上に食傷するほど出てますから)。

どちらかというと北国の美味、冬の味覚という感じだけれども、南から見ていこう。まずはこれ。

【ズワイガニ/Chionoecetes opilio/snow crab】
短尾下目(カニ下目) - ケセンガニ科 - ズワイガニ属

山陰以北の日本海と東北地方からカナダまでの北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に分布し、3種の中では最も深海性のようである。
♀は♂(大きい個体では脚を広げると70cmに達する)の半分程度の大きさしかない。♂の方が体が大きいというのは割と珍しいねえ(哺乳類あたりを除いて)。これは確か、♀は卵を産むようになるとそちらに養分を取られるので脱皮しなくなり、成長が止まるということではなかったか(cf. 2015.11.25「ご当地の魚に向かひて我物申す:二匹目」)。

より深い場所に棲む近縁種ベニズワイガニ/Chionoecetes japonicusも近年、ズワイガニの代用品から脱皮して資源価値が高まっている。山陰の香住漁港でいうカスミガニ、北陸の富山湾のアカガニはこれ。肉が柔らかくて加熱すると身が縮みやすいものの、生の甘味・旨味の成分はズワイガニに勝るなるべし。価格が安いこともあって、市販のかにクリームコロッケなどに入っているのも大抵こちら。

漁期は西と東で異なり;

富山県以西:♂は11月6日~3月20日、♀は11月6日~1月10日
新潟県以東:♂♀とも10月1日~5月31日

とかなり開きがある。北の方ではGW越しても食えるっちゃ食えるんですなあ。さらに、省令や自主協定により、各地の規制は細かく異なるようです。

さらに話をややこしくするのがブランディングの問題。高級食材たる故に格好の地域ブランドの対象となっており、雌雄のサイズが異なることとも相俟って、様々に名称がつけられている。

♂では;

マツバガニ:山陰地方
トットリマツバガニ:鳥取県
カスミマツバガニ:兵庫県美方郡香美町の香住漁港(カスミガニはベニズワイガニ(の♂))
シバヤマガニ:兵庫県美方郡香美町の柴山漁港
ハマサカガニ:兵庫県美方郡新温泉町の浜坂漁港
ツイヤマガニ:兵庫県豊岡市の津居山漁港
タイザガニ:京都府京丹後市の間人(たいざ)漁港
アミノガニ:京都府京丹後市の浅茂川漁港(アミノガニにおける「タイザガニ」はご当地唯一の底引き船「大善丸」に由来するとやら)
エチゼンガニ:福井県
カノウ(加能)ガニ:石川県(公募により命名、越前に対抗して加賀+能登)
マイセツ(舞雪)ガニ:秋田県男鹿市で12月25日~2月末日に水揚げされる♂のうち、800g以上で脚が全て揃っているもの
ホッカイマツバガニ:北海道、青森県、山形県、新潟県、富山県、ロシアで水揚げされる♂のズワイガニや♂のオオズワイガニ

と百花繚乱。
なんでも、所属漁港や漁船名まで記しタグを付けたりしてるそうな。農産物や畜産物のノリ台風台風

なお、脱皮直後の♂はミズガニと呼ばれ、鳥取県ではワカマツバガニと呼ぶ。

♂に比べると♀は割と単純ですが、それでも;

オヤガニ:鳥取県・島根県
セコガニ:兵庫県
コッペガニ:京都府
セイコガニ:福井県
コウバコガニ:石川県

などの地方名を持つ。

さらには、秋田県や山形県などで本種をタラバガニと称する地域まである由。

ただ、ここで押さえるべきポイントは、「ズワイガニは♀も漁業対象となっている」こと。タラバガニやケガニでは(ベニズワイガニも)資源保護の目的で♀は漁獲禁止なので、別の名前がつくこともないわけだろう。

とても覚え切れまっせん・・・。乱立がかえってブランド力の低下を招・・・ああいやいや。

ズワイガニよりさらに二回りほども大型化するのがタラバガニ。

【タラバガニ/Paralithodes camtschaticus/red king crab】
異尾下目(ヤドカリ下目) - ヤドカリ上科 - タラバガニ科 - タラバガニ属

カニではなく超巨大ヤドカリであることはよく知られている。
見分けのポイントは、右のハサミが左より大きいこと、♀の腹部が左右非対称であること、そして何より脚が4対しかない(ように見える)こと。これは、第5脚が非常に小さくて鰓掃除専用になってるため。茹でる前の体色は、ズワイガニの暗赤色に対して暗紫色。
一般的なカニの「横這い」に対し、縦方向にも歩けるという器用者っす、ヤドカリだから。また、生臭いとしてカニミソが食用に供されることはまずないらしい、ヤドカリだから。

分布は日本海、オホーツク海、ベーリング海等の北太平洋や北極海のアラスカ沿岸で、バレンツ海でも1960年代の放流により、天敵のいない環境下で爆発的に殖え生態系を脅かす存在にまでなっている由。また、南半球のチリ、アルゼンチン付近にも生息しているらしい。タラバ鱈腹食いたきゃバレンツ海かガラパゴスを目指せ。

我が国での主な漁場はオホーツク海で、漁期は基本的に1~5月と9~10月だけど、これにはあまり意味がない。現在日本で流通しているのはほとんどがロシア産(通年漁獲だとか)、あとはアラスカかカナダのもの。「産地直送」と謳ってあっても海外産、なんてことも珍しくないそうな。特に、「子持ちタラバ」だったら輸入品で、これは日本では古い農水省令で♀の漁獲が禁じられている(but販売については規制がない)ため。

近縁種には、北海道東端の根室市納沙布岬(のさっぷみさき:北海道北端の稚内市の野寒布岬/のしゃっぷみさきとは異なる)を中心として夏~秋に獲れるハナサキガニ/Paralithodes brevipesや、2004年にタラバガニ偽装で社会問題となったアブラガニ/Paralithodes platypus等がある。

ズワイガニとタラバガニを見分けられない人は割といると思うんだけど、次のものはそんなこともあまりないだろう。

【ケガニ/Erimacrus isenbeckii/horsehair crab】
短尾下目(カニ下目) - クリガニ科 - ケガニ属

北西太平洋の沿岸域に分布し、水深30~200mと案外浅いところに生息する。日本では何といっても北海道のうまいもん代表という立ち位置だけど、人間様の食用にされ始めたのは第二次世界大戦の少し前からと歴史は浅く、それまでは肥料にしていたとか。
漁期は北海道全体としてはほぼ通年。ただし漁場は、春のオホーツク海、夏の噴火湾、秋の釧路や根室、冬の十勝と移り変わる。

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で、ズワイガニ以外♀は資源保護のために禁漁だけれども、これにも問題はあるらしい。雄雌比に極端な偏りが生じて、繁殖に影響を与えているという説があるそうです。何だか、問題がズレている気もするんだけどねー。単に♂を獲り過ぎている、というのとはどう違うの?このところ、ケガニは深刻な不漁に襲われているらしいし。

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(2019.04.11 日刊水産経済新聞)

オホーツク沿岸で3月から始まった毛ガニかご漁は、南部で記録的不漁に見舞われている。浜相場は高騰し、平均単価は空前のキロ6000円台を記録、産地関係者からは「異常な高値」との声が上がり、製品販売の先行きに懸念が出ている。
同漁は例年通り、北部の宗谷管内を皮切りにスタートし、3月16日に同管内の宗谷、猿払村、頓別、枝幸で一斉に初水揚げがあった。20日からは南部のオホーツク管内の雄武-常呂、25日から網走-ウトロでも解禁。順次操業が始まり、4月8日の斜里での初水揚げをもって全地区が出揃った。
しかし、オホーツク管内の漁模様はシケもあって思わしくなく、道の集計によると3月31日現在の漁獲は前年同期比84%減のわずか11トンと低迷している。宗谷管内も8%減の296トンと前年を下回っているが、これは出漁日数が前年より3日少ないことに起因しており、一日当たりの漁獲量は11トンとほぼ前年並み。オホーツク管内の一日当たりの漁獲量は前年比74%減の0・5トンで、不振ぶりが際立つ。南部の漁協関係者は「出漁してかごを入れても全然(カニが)掛かってこない。資源が少ないようだ」と困惑している。
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今年、紋別郡雄武町(おうむちょう)では例年4月下旬に開催されている「毛がにまつり」が中止された。

(続く)

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