« 【鶏口牛後編】蜻蛉洲よ何処に(国産チキンシンボルマーク・Piece Together for Peace):尻 | トップページ | 【顚末編】表現と犯罪の境界(南三陸さんさん商店街落書きのその後)のその1 »

2020年10月18日 (日)

ネット上の犯罪行為 (iii)

cf.
2018.10.10「ネット上の犯罪行為 (i)」
2018.10.11「ネット上の犯罪行為 (ii)」

 

3年前に起きたネット上の悪質なデマ情報拡散の事件に関して、動きがあった。

 

-----
(2020.10.02 18:44 (2020.10.02 19:05 更新) 日本経済新聞)

 

神奈川県の東名高速道路で2017年6月、あおり運転を受けた夫婦が死亡した事故で、インターネット上にデマ情報を投稿したとして、検察官役の指定弁護士が2日、名誉毀損罪で、福岡県春日市の無職男性(65)を在宅のまま強制起訴した。小倉検察審査会が2回、起訴すべきだと議決していた。
事故を巡るデマ投稿では、既に福岡地検小倉支部が同罪で、埼玉県の男性を在宅起訴。10月29日に福岡地裁小倉支部で初公判が開かれ、今回強制起訴された男性とは別に審理される。ほか5人が、罰金30万円の略式命令を受けている。
起訴状によると、強制起訴された男性は橋口富男被告。17年10月、ネット掲示板に、あおり事故の石橋和歩被告(28)=自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪で公判中=の勤務先が実際は違うのに、北九州市八幡西区の建設会社であるかのような書き込みをし、建設会社の名誉を傷つけたとしている。
09年5月に始まった強制起訴制度で、起訴されたのは10事件14人となった。うち有罪判決は2事件の2人(いずれも確定)にとどまる。〔共同〕
-----

 

全く無関係な者の権利が侵害されたことに対し司法が救いの手を差し伸べずに放置するという状態が続いていたところから一歩前進したことをまずは喜ぶとともに、決して諦めなかった建設会社社長の精神力に敬意を表したい。

 

しかし、本件についてのマスメディアの報道のしかたには何か不思議なものがあるようです。
テレビから見てみると。

 

-----
(2020.10.02 19:53 NHK北九州 抜粋)

 

あおり運転をきっかけに4人が死傷した事故をめぐり、ネット上に北九州市の会社を中傷するうその情報を書き込んだとして、書類送検されたあと不起訴となり、検察審査会に「起訴すべきだ」と議決された男が、名誉毀損の罪で強制的に起訴されました。
強制的に起訴されたのは、福岡県春日市の無職、橋口富男被告(65)です。
起訴状などによりますと、橋口被告は3年前、神奈川県の東名高速道路で、あおり運転をきっかけにワゴン車に乗っていた一家4人が死傷した事故をめぐり、当事者と関係のない北九州市の建設会社について、インターネット上に名誉を傷つける情報を書き込んだとして名誉毀損の罪に問われています。

 

〔後略〕
-----

 

そう、「あおり運転」の脅威を世間に広く知らしめるきっかけとなった痛ましい事故です。
今回の起訴に至る経緯を含めた事実関係を最も詳細緻密に書いているのは毎日新聞である。

 

-----
(2020.10.02 20:00 毎日新聞)

 

神奈川県の東名高速道路で2017年にあおり運転を受けた夫婦が死亡した事故を巡り、無関係の会社をインターネット上で中傷したとして小倉検察審査会から「起訴議決」を受けた投稿者の無職男性(65)=福岡県春日市=について、検察官役の指定弁護士は2日、名誉毀損罪で福岡地裁に在宅のまま強制起訴した。当初11人が書類送検されたネットデマ事件の捜査は審査会を経た「市民による起訴」で区切りとなり、司法判断が注目される。
起訴状などによると、強制起訴された男性は17年10月、あおり運転をした被告男性(1審で懲役18年、控訴審で差し戻し)が逮捕された後、被告と同じ姓が会社名にあり住所も近い北九州市八幡西区の建設会社について、被告の勤務先であるかのような書き込みをネットの掲示板に投稿し、名誉を傷つけたとしている。
建設会社を経営する石橋秀文さん(50)によると、ネットには石橋さんの名前や住所、電話番号などがさらされ、会社には無言電話や中傷電話が多い日で100件以上かかってきた。

 

石橋さんから告訴を受けた福岡県警は18年6月、11人を名誉毀損容疑で書類送検したが、福岡地検小倉支部は同8月、11人全員を不起訴処分にした。うち死亡した1人と石橋さんに謝罪した1人を除く9人について、石橋さんは不起訴を不当として小倉検察審査会に審査を申し立てた。
審査会は19年10月に9人全員を「起訴相当」と議決し、再捜査した地検小倉支部はうち1人を起訴、5人を略式起訴したが、残る3人は示談や和解が成立しているなどとして再び不起訴とした。その3人について審査会は20年7月、今回強制起訴された男性を起訴すべきだとする「起訴議決」とし、残る2人は「起訴議決に至らず」と判断。審査会は「(男性の)和解はあくまで民事上で、刑事上の処分を免れさせるという意味ではない」とした。
男性の強制起訴で、名誉毀損罪の公訴時効(3年)を目前に当初書類送検された11人の捜査結果は出そろった形だ。一度は11人全員が不起訴となったが、検察審査会を経た再捜査でうち5人が略式起訴で罰金刑となり、起訴された2人の審理が法廷で始まる。石橋さんは毎日新聞の取材に「ネット上のデマや著名人への誹謗中傷がやまない中、少しでも抑止力になるような裁判所の判断を望んでいる」と話した。【成松秋穂、宗岡敬介】

 

◇強制起訴制度
検察が不起訴にした事件について、市民から無作為に選ばれた審査員11人による検察審査会が、被害者らの申し立てを受けて不起訴処分の妥当性を審査。8人以上が起訴すべきだと判断し「起訴相当」と議決した場合、検察は再捜査をする。再び不起訴としても、2度目の審査で8人以上が起訴すべきだとすると「起訴議決」となり、裁判所が指定する検察官役の弁護士が強制起訴する。2009年5月の制度開始から起訴議決されたのは延べ15人(20年8月末時点)。兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故でJR西日本の歴代3社長、東京電力福島第1原発事故で東電旧経営陣3人などが強制起訴されたが、無罪判決も相次いでいる。
-----

 

なかなか複雑ないきさつがあるわけです。検察審査会の議決は2度行われてるんですよ。
地元福岡県の地方紙では。

 

-----
(2020.10.03 06:00 西日本新聞 抜粋)

 

神奈川県の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けた夫婦が死亡した事故を巡り、インターネット上に誤った情報を投稿したとして、検察官役の指定弁護士は2日、福岡県春日市の無職の男(65)を名誉毀損罪で福岡地裁に強制起訴した。

 

起訴状によると、男は同年10月、あおり事故と関係ない北九州市八幡西区の建設会社の電話番号をネット上に投稿するなどし、会社の名誉を毀損したとされる。

 

〔後略〕

 

(白波宏野)
-----

 

翌日の朝日新聞だと。

 

-----
(2020.10.03 11:55 朝日新聞 抜粋)

 

2017年に神奈川県の東名高速であった死亡事故をめぐり、あおり運転をした男が北九州市の建設会社に勤めていたなどとする虚偽の情報をインターネット上に投稿したとして、福岡県春日市の無職の男(65)が2日、名誉毀損罪で強制起訴された。検察の不起訴処分に対し、検察審査会が2度、起訴を求める議決をしていた。
検察官役の指定弁護士の起訴状によると、男は17年10月、あおり運転の事故とは無関係の建設会社の名誉を毀損しようと、ネットの掲示板に社名や電話番号、差別的な文言などを投稿したとされる。

 

〔中略〕

 

議決書は、投稿内容があおり運転の男と会社を結びつける「具体的事実の摘示とはいえない」などとする不起訴理由について「常識的観点からすると、到底受け入れられない」とした。(加治隼人)
-----

 

もうおわかりでしょう。
本件では、A.危険運転致死傷とB.(ネット上の)名誉毀損/侮辱という、2つの犯罪行為が絡んでいる。それぞれに加害者と被害者が存在しているわけですが、その実名の出し方が違うんです。

 

冒頭の日経(共同通信の配信のクレジットが入っている)は;

 

A 加害者:顕名
A 被害者:非顕名
B 加害者:顕名
B 被害者:非顕名

 

NHKは;

 

A 加害者:非顕名
A 被害者:非顕名
B 加害者:顕名
B 被害者:非顕名

 

毎日新聞は;

 

A 加害者:非顕名
A 被害者:非顕名
B 加害者:非顕名
B 被害者:顕名

 

西日本新聞と朝日新聞は;

 

A 加害者:非顕名
A 被害者:非顕名
B 加害者:非顕名
B 被害者:非顕名

 

となっている。読売と産経は記事が取れなかった。

 

ツルはこれを、AとBとを別個の案件として扱うか、それとも一連の案件として扱うかの差だと考えた。

 

遡って調べてみると、朝日はこの4月にはBの別の加害者につき一部顕名で記事を書いている。

 

-----
(2020.04.01 00:09 朝日新聞)

 

神奈川県の東名高速で2017年6月に起きたあおり運転による事故をめぐり、一審で実刑判決を受けた男=控訴審で一審判決を破棄、差し戻し=が北九州市の建設会社に勤めていたなどとするデマをネット上に投稿したとして、福岡地検小倉支部などは31日、埼玉県川越市の小売店従業員杉浦明広容疑者(53)を名誉毀損罪で起訴し、別の男5人を同罪で略式起訴し、発表した。
発表によると、杉浦容疑者ら6人は17年10月11~12日、パソコンやスマートフォンでネットの掲示板サイトにデマを転載したり、この建設会社の所在地や電話番号などが記載されたホームページのURLを書き込んだりして、同社の名誉を損なわせたとされる。
この事件では11人が書類送検されたが、同支部は18年8月、全員を不起訴にした。うち杉浦容疑者ら9人について、小倉検察審査会が19年10月に「起訴相当」と議決したのを受け、同支部が再捜査していた。
一方、同支部は男性3人を不起訴処分とした。同支部は「諸般の事情を考慮した」としている。(布田一樹)
-----

 

「諸般の事情」で済ませてしまってよいものかという気はする(この時不起訴となった3人のうちの1人が今回強制起訴されたわけです)。

 

西日本新聞はこうだった。

 

-----
(2020.04.22 06:00 西日本新聞)

 

神奈川県の東名高速道路で2017年、あおり運転でワゴン車の夫婦が死亡した追突事故を巡り、インターネット上に誤った情報を拡散させたとして、名誉毀損罪で略式起訴された北九州市小倉北区の無職の男性(51)ら5人に、小倉簡裁などは10日までに罰金30万円の略式命令を出した。
他の4人は、福岡市博多区の会社員(50)▽宮崎県三股町の派遣社員(44)▽大分市の事務員(41)▽福島県白河市の放射線測定員(47)。いずれも18年6月、名誉毀損容疑で書類送検され、同8月に不起訴処分となった。小倉検察審査会が19年10月、全員を「起訴相当」と議決したことを受け、小倉区検などが先月31日に略式起訴した。(野間あり葉)
-----

 

「福島県白河市の放射線測定員(47)」なんて、地元じゃほとんどそれで特定したことになるんじゃないですかね。
しかしなー、「小人閑居して不善を為す」というけれど、みんな仕事持ってるんですよ、橋口富男以外。しかも全員が40代以上、分別盛りのハズの。他人の批判をするなとは言わないが、するならするでよく情報を吟味した上で十二分に考え抜いてから書け。

 

でも話はそこで終われない。
前述したとおり、日経報道は共同通信の記事を引いたもののようですが、その共同通信の記事は(現在ネットに残っているものを見る限り)途中でぷつんと途切れて終わってるんです↓。

 

-----
(2020.10.02 18:59 共同通信)

 

神奈川県の東名高速道路で2017年6月、あおり運転を受けた夫婦が死亡した事故で、インターネット上にデマ情報を投稿したとして、検察官役の指定弁護士が2日、名誉毀損罪で、福岡県春日市の無職男性(65)を在宅のまま強制起訴した。小倉検察審査会が2回、起訴すべきだと議決していた。
事故を巡るデマ投稿では、既に福岡地検小倉支部が同罪で、埼玉県の男性を在宅起訴。10月29日に福岡地裁小倉支部で初公判が開かれ、今回強制起訴された男性とは別に審理される。ほか5人が、罰金30万円の略式命令を受けている。
起訴状によると、強制起訴された男性は橋口富男被告。
-----

 

もちろん、配信を受けた全国の地方紙も判で捺したように同じ文章。(一方、冒頭の日経記事は早々と掲載期限切れという理由で全削除されている・・・。)Bの加害者名まで削った、というのならまだわかるんですが。何があったのだろう?
やはりそれは、公判中のAの加害者の名前まで出したことに関係しているのだろうか。

 

しかし、ふと考える。
本件では全く落ち度のない第三者が巻き込まれたわけだから社会の処罰感情も大きかったろうが、what if, 仮に、Aの加害者が実際に当該建設会社社長の息子だったり、あるいは(血縁関係はなくても)社員だったりした場合であったらどうなるだろう。
その場合に「私はこの親/会社を許せません」と考えるか否かは人により態度が様々に分かれるところだろうし、もしそのように考えた場合にそのことを(名指しで)(ネット上を含めて)意見表明すること自体は、基本的には禁じられるべきものではないだろう。善悪の考えを持つことは社会的動物たる人間として当然の所為であるはずだ。「市民から無作為に選ばれた審査員11人による検察審査会」での判断も分かれるのではないか。
少し視点をずらせば、アナタがその会社の社員であった場合、「彼は彼、我は我」と毅然としていられるかということだ。

 

その意味で、特に木村 花の自殺以降、世論が「意見の表明」に対して極端に規制をかける方向に進んでいるようなのが気にかかる。行為面に縛りをかけるばかりでは、いくら啓蒙啓発に励んだところでリテラシー💦💦の向上と本質の解決にはつながらず、同様の事件は今後も後を絶たないだろう。
「ネット情報を鵜呑みにするな 」「信用するに足る情報か否か注意して弁別せよ」だけではダメで、結局は各個人が確固としたそれぞれの意見を育み持つことが大切だと思う。

 

//

 

この問題の本質を以上のように捉えるのは間違っているだろうか。
不特定多数が瞬時に閲覧可能なネットを用いて拡散したからマズいの?
「軽い気持ちで書き込んだ」にしては権利侵害の程度があまりにひどかったから?
個人情報を書き込んで被害者の生命身体財産を具体的危険に晒したから?
それとも、加害者の名前で検索をかけること自体が人の道に外れた行いってこと??

« 【鶏口牛後編】蜻蛉洲よ何処に(国産チキンシンボルマーク・Piece Together for Peace):尻 | トップページ | 【顚末編】表現と犯罪の境界(南三陸さんさん商店街落書きのその後)のその1 »

Visual界:キャラクター/シンボル/ロゴ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 【鶏口牛後編】蜻蛉洲よ何処に(国産チキンシンボルマーク・Piece Together for Peace):尻 | トップページ | 【顚末編】表現と犯罪の境界(南三陸さんさん商店街落書きのその後)のその1 »

2020年12月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

最近のトラックバック

無料ブログはココログ
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想