【Derivative編】「黙食」の子供たち:後編(游心の湯・真岡市 黙●対応)
【2021.03.15 改稿】
(承前)
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つい先日、批判的な文脈で「黙食」Derivativeを取り上げたばかりだけれど、ちょっと面白い現象に気づきかけているので、少し。
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そう、それを書かなきゃなんだけど、その前にまずやっとくことがいくらかありまして。
今度は民間から一つ見てみよう。同じ福岡県内から。
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(2021.01.28 読売新聞 抜粋)
〔前略〕
黙食を提唱するのは、福岡市南区のカレー店「博多スパイス マサラキッチン」の店主、三辻 忍さん(46)。
〔中略〕
店を始める前に10年以上、デザイナーとして働いた経験を生かし、青地に白い文字で「黙食」と大きく書かれたデザインを考案し、画像を公開。用途に合わせてアレンジする施設も登場している。
福岡県久留米市の温泉施設「久留米 游心の湯」は、三辻さんのデザインをヒントに「黙浴」「黙蒸もくむす」を呼びかけるポスターを作って、掲示する。福島幹子支配人(46)は「マスクを外して入浴したり、サウナを利用したりする人が大半。掲示後は会話せずに利用してもらえるようになった」と喜ぶ。
反響を呼んでいる理由について西日本工業大の梶谷克彦教授(デザイン学)は「感染への不安を抱える消費者に納得性のあるメッセージだ。コロナ禍を乗り切るため店と客が協力する『黙食』を、わかりやすく伝えるシンプルなデザインが多くの人に受け入れられたのではないか」と分析する。
三辻さんの店には、黙食の取り組みを知って来店する新規の客がいるという。「黙食を勧める店に安心感を抱く人も多いようだ。食事と会話をセットで楽しむ飲食店の本来の姿を一日も早く取り戻せるよう、呼びかけを続けたい」としている。
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えっ、マスクしたままでお風呂入る人もいるんだ!そいつぁたまげたぜってなことはおいといて。
「もくむす」!!あったらしー!!(爆笑)音読みじゃなくてもいいんだ!何だったら「黙浴」も「もくあみ」と読んじゃどうだろうww。
このスパがこれを考案したのは割と早い段階だったようで、1月21日のTwitterに載っている。
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(2021.01.21 久留米 游心の湯 支配人福島(ととのいのミキ))
游心の湯では現在黙浴、黙蒸、黙食を
推奨しています。
ご協力お願い致します(._.)
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これには御本家もリツィートしてござる。
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(2021.01.23 ミツジ@マサラキッチン)
黙三段活用に派生してたw
それぞれ知恵を絞って頑張るしかない。応援しています。
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そう、知恵を絞るんです、各自が。
次に、対照実験的に、栃木県真岡市の例を見てみる。前回取り上げた諸々の自治体とは異なり、キャラクターが用いられている。(だったらやなぎはらともみ天帝にお願いすればよかったのに。即座に作ってくれたはずよ、即座に。)
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(2021.01.27 真岡市サイト)
新型コロナウイルス感染症の対策啓発のため、「黙食」を促すポスターを作成いたしました。
「黙食」とは、会話をせずに“黙って食べる”ということで、食事中の会話を控えることで飛沫を防ぐことができるためコロナ対策のひとつとして推奨されています。
食事の内容によって様々なポスターをご用意いたしましたので、印刷してぜひご利用ください。
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ほれほれ、「変容」が現れてるでしょやっぱり。いつの間にか、「推奨」というお墨付き(しかし誰の?)がついている。
で、具体的にどんなものだったかと言いますと・・・
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洋食
和食
中華
スイーツ
飲み物
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だからっ!!デザイナーに好き勝手やらせるなっつうの!!!引き算の発想で作られたものに、今度は足し算で加えられたものがご当地キャラクターだったという(>_<)。だから夾雑物だというんです。
あのさ、これらが「飲食店向け」のものであるという前提に一応立つとしてもだよ。一番奇異なのは「飲み物」バージョンだよね。カップルなんかで喫茶店入る時って、何かを飲みたいからそうするわけじゃないでしょ。話をしたいからそのための場が欲しくて入るのでしょ。そこは三辻氏が自ら指摘しているとおり、「黙食」そのものに対するツッコミだけど、このデザインだとその不都合が激化する気がする。
「和食」にカレーライスが出てくるところにもちょっとビックリしますが、これはMasala Kitchenに対する製作者のリスペクトっちゅうもんかいねぃ😁。
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【2021.03.15 追記】
「国民食」ではあっても「和食」ではないだろよ。
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「洋食」でオムライスを手づかみで食べてるのも感心しませんな😜。
このところ出番のなくなってしまったご当地キャラの活路を見出すという目論見はあったろうにせよ、キャラクター2体がおいしそうに(マスクを外してww)飲み食いしてるという発想自体、ツルにはなんかズレているとしか思えない。三辻氏の言葉を借りれば「結果的に矢がどの的にも当たっていない感じ」。
そもそも世の中の飲食業って、「洋食・和食・中華・スイーツ・飲み物」としてCrystal-Clearに截然として存在してるわけじゃないでしょ。例えば飲み物以外一切出さない喫茶店なんて、真岡市にどれだけあるのよ。
♪店の名はライフ 今じゃ純喫茶
登場キャラクターの紹介もしとこう。夾雑物とは言え愚blogですからね💧💧
栃木県真岡市(もおかし)
イメージキャラクター
コットベリー
エダりつこ(栃木県宇都宮市:イラストレーター)
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真岡市と二宮町の合併[引用註:2009.03.23に真岡市が芳賀郡二宮町を編入]1周年の年に、コットンパパとストロベリーママから生まれたの。
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もおかぴょん
小平知佳(栃木県下野市)
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平成27年11月の「もおか人・夢・未来フェスタ2015」でデビューしたぴょん。
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小平はその後、ご当地の地域おこし協力隊員になっている(2018.11.01~2021.10.31)。活動内容は「SNSやゆるキャラを活用した真岡市の魅力発信」だそうな。
あー!だからこんなポスターが作られたのだろうか?やなぎはらともみ天帝に頼むわけにはいかなかったのねww。(「真岡市」の表示もキャラクター名のクレジットもないのは内向きのものということでしょう。)
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ツルは確かにゆるキャラが嫌いだけど、ここは好き嫌いや趣味嗜好の問題から離れて、「『伝わる』『伝える』とは何か」ということを改めて考えさせられる。
ご当地キャラクターの美徳は人をほほ笑ませることだろう。そこまでを否定するものではない。しかし一方、ツルが/アナタが、例えば客足減少と客のマナーに悩むレストランの店主/スポーツジムのインストラクター/銭湯の経営者だったりしたら、キャラクター入りのデザインと青地に白抜き文字だけのデザインとどちらを選ぶだろう。想像だけど、後者を選ぶ人がかなり多いのではないか。「シンプルでダイレクトに伝わるから」です。そして「お客に実際の行動を起こさせるから」です。(もっとも、これがカラオケボックスだとそもそも「黙カラ」ポスターを貼り出すとはちょっと思いにくいが。)
情報量を増やせば伝わりやすくなるというのは幻想とまやかし。ここまでCOVID-19に関する情報が世にあふれている今、一般社会が求めているのは大学の先生がいう「納得性」ある日常のガイダンスであって、そこにピンポイントに絞り込んだからこそ「黙食」という新語とMasala Kitchenのポスターは広く受け入れられた。
キャラクターをあしらうことによって、その趣旨はわかりにくくなるのではないか、むしろ。たとえゆるキャラが好きな店主であっても、「これは違う」となるのじゃなかろうか。
やなぎはらともみ曰く「柔らかく伝えたい」とのことだけど、結局それは新型コロナ感染症対策としての黙食ポスターではなく、ご当地キャラクター救済事業としての黙食ポスターを作ったに過ぎないと思えてくる。この点についてはまた考えてみたい。
これとは関係ないけど、さるBBSで、小田原市にあるサウナにつき;
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サウナ室は静かで良かったです。
しかし、黙脱もして欲しい。
脱衣所が1番うるさいです。
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とあったので、ちょっと笑っちゃいました。(「もくだつ」だろうか、「もくぬぎ」だろうか?)
も一つおまけ。
先日初めて行きました、Masala Kitchen。会社帰りに西鉄バスを途中で降りて。ツルも「黙食の取り組みを知って来店する新規の客」になったわけ😅。黙食を守りそそくさと食べさっさと立ち去ったので店主氏ともお話はしとりまっせんが。でも言われなくても入ってすぐに手洗いしたもんねーだ。
大変においしかったです。ナンがなくてライスのみというのがちょっと意外だったけど、小さなお店だからそこらへん制約もあるんでしょう。次は青バナナのマサラ炒め、的なトッピングを攻めてみるか。料理用バナナはツルもたまにカレーに入れるけど、普通においしいんだよね、バナナと思わなければ。
― Inspired by「店の名はライフ」中島みゆき(1977.06.25リリース アルバム「あ・り・が・と・う」より)―
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