【スーパーローカル編】伊都国の密室で(九州大学フジイギャラリー);第一密室
今回はちょっと毛色を変えて、こんな地元ネタをば。
福岡に九州大学という国立大学法人がありまして。
Wikipediaには;
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文部科学省が実施しているスーパーグローバル大学事業のトップ型指定校である。
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と出ている。まあ、名門っつうか、難関大学ということになってます(ツルは行ってませんが)。福岡県内の進学校では、今でも「九大に何人入るか」がランク付けの基準となっているきらいがある。
この大学はもともと福岡市東区箱崎にあったところ(あ、教養部は中央区六本松だった)、2000年代以降、福岡市の西隣の糸島市に「伊都キャンパス」というのを作って10年ほどかけて移転し(*)、福岡市内から九大生の姿は消えた(ウソです)。一時首都圏でも大学が郊外へ移転する動きがあって、その後揺れ戻し的に都心回帰してるわけだけど、その後半部分はここには当てはまらんみたい。
もとはのどかな農村/漁村だった糸島も文教地区の仲間入りしちまったんです。これによるBrand Elevation効果もあってか、「糸島ブランド」のご当地農水産品は今やすっかり(福岡じゃ)一目置かれる存在(cf. 2022.02.27「非にして非なるもの - 東京 vs 福岡:その後の変化」)。
(*)と思ったら、正確には九州大学本部は福岡市西区元岡で、つまり伊都キャンパスは糸島市と福岡市西区にまたがっている。左を向いた竜の頭の形をしている糸島半島の、首の後ろっ側の辺りです(cf. 2016.04.14「丸ブー市章と地図キャラの力学」)。
この伊都キャンパスの中に、2年前、あるミュージアムが完成した。名づけて・・・
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フジイギャラリーは、イフジ産業株式会社取締役創業者会長 藤井德夫氏(本学法学部昭和39年卒業)のご寄附により、2020年10月に竣工しました。伊都キャンパスセンターゾーンにある中央図書館と椎木講堂[引用註:しいきこうどう]の中間に位置し、当面の運用を九州大学総合研究博物館が担っています。本学学生・教職員をはじめ広く一般のみなさまを含み、異分野の交流・越境を促し、発想を促す空間として機能させることを目指しています。感染症拡大に伴い2021年度は学内限定利用とし、一般公開を含む本オープンを2022年5月に予定しています。
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フジイさんが興した会社だからフジイ産業、ではなくてイフジ産業なんだ。
調べてみると、この会社は福岡県糟屋郡粕屋町に本社のある上場企業(東証・福証)で、鶏卵を仕入れて割って(「割卵」という言葉があるそうな)「液卵」というものにして、製パン業界や菓子業界向けに販売している、業界では大手。地方の元気印の企業ってことみたい。有価証券報告書を見てみると、最大の得意先は山崎製パン株式会社のようで、全国のコンビニやスーパーに並んでるYAMAZAKIのパンやケーキにはだいたいイフジ産業の液卵が入ってるってなものらしい(アナタも口にしてるはずヨ)。しかし世の中にはいろんな会社があるもんやなあ。
で、そこの今年御年81歳になる(出典:有報)会長さんが母校に私財を寄付して建てた、ということのようです。この会長さんの事績の数々を展示するということかと思ったらさにあらず、九大の学術コレクションを展示する施設で、伊都キャンパスの中でもいいロケーションにあるようだから九大としてもそれなりに重要な施設なんでしょう。
こういうミュージアムとか収蔵庫とかいうものは、竣工してから1年以上「枯らし」を入れなくちゃいけないということがありまして(湿気の問題で貴重な文物がカビちゃったりするでしょ。民家だって本当はそうだよね)、その間にロゴマークを2021年7~8月募集し、一次選考で応募総数51点から5点まで絞り込んだと思いなせえ。
因みに、今年5月に正式なロゴマークのデザインが発表されるまでの間もギャラリーの学内利用は始まっていたわけで、仮のロゴマークとロゴタイプを用いていたらしい。これです↓。
この仮ロゴマーク、どうも日本の家紋の「八つ藤」と「隅立て井筒」を組み合わせたデザインのように見える↓。
八つ藤紋は家紋としては割と特殊なものかと。フジイさんのおうちの紋所じゃないかという気がしたりして。(少なくともイフジ産業のロゴマークではない。)
で、ここからが本題。
5点の最終候補を見てみたら結構面白かったです、ツッコミどころがいろいろあって。
九州大学総合研究博物館
フジイギャラリー
ロゴマーク
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一次選考:総合研究博物館教職員13名、学生13名、学内アドバイザー2名による採点に基づき、最終選考候補作として上位5点を選出
最終選考:藤井德夫様、総長、総合研究博物館長、総合研究博物館教員6名、学内アドバイザー2名の計11名を審査員とした選考委員会を開催。一次選考得票点・学外アドバイザー評価等を参照のうえ、合議により一次選考第一位であった山崎千春様の作品が大賞決定
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「学生13名」はどういう基準で選ばれたんだろう?「学内アドバイザー」という立場もよくわからんが。
(一次選考順位 1位)
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「わかりやすく、覚えやすいロゴ」を目指してつくりました。ロゴは、フジイギャラリーの特徴的な[建物]の形と、外観やギャラリーの天井などにふんだんに使われている木のイメージを「The Fujii Gallery」の文字と組み合わせています。年齢や性別、国籍などを問わず、様々な人が交流する場になるということで、多くの人に受け入れてもらいやすいように癖のないシンプルなデザインに仕上げました。
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ふーん、スマートでおしゃれだけど、なんだかNew YorkのModern Art Galleryですっつっても通りそうな感じ。博物学的要素はあまり感じないというか。
でも実際に採用されたのもこれ。一次選考の順位を示して(!)最終選考した結果、特にドンデン返し(最近もありましたよね、鳥取県倉吉市打吹/うつぶきの市立小学校の統廃合に絡む校名公募で)もなく一次選考の投票結果どおりに決まった次第。
その後、九州大学芸術工学研究院教授 伊原久裕による細部の(細部の!!)リファインが行われ、最終版はこうなった。
九州大学総合研究博物館
フジイギャラリー
ロゴマーク
山崎千春
色合いが応募時とは変わっているけれども、特に色指定があるわけではなく、他の色味のものも用いられている。
問題はこの作者名で、「山崎千春」で検索をかけると九州大学附属図書館付設教材開発センターのテクニカルスタッフとして見つかります😱。インサイダーの作品選んじゃった嫌疑はかかるわけだ。もちろんれっきとした公募だったのに(「公募ガイドONLINE」上に痕跡が残っている)。それとも偶然だと?
附属図書館とフジイギャラリーは隣り合っているので、建っていく様子はそりゃ毎日目にしてたでしょうね。
因みに九州大学は2003年に九州芸術工科大学(福岡市南区)を合併していて、そこは現在、九州大学の芸術工学研究院(そこの教授がリデザインを担ったわけだ)・芸術工学府・芸術工学部となっているので、どっちかっつうと公募なんかにしないで、そこにロゴマーク制作を全部任せりゃよかったんじゃねえのと思ったりもするけれども。
(続く)
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