【加筆編】職業デザイナーとご当地公募:その2(ヘルス・グラフィックマガジン表紙・3R推進ポスター)
(承前)
次の公募ガイダーに行く前に、村上のことをもう少し深掘り。「ご当地公募」じゃないけど。
2021年の3月には、ちょっと変わったこの公募で採用の栄に浴した。
東京都千代田区
株式会社アイセイ薬局
ヘルス・グラフィックマガジン Vol.39「睡眠不良」号
表紙デザイン
村上正剛
原案
↓
完成版
店舗数約400、連結売上高737億円というから大したものです(2011年ジャスダック上場:2016年TOBにより上場廃止)。この調剤薬局チェーンが、フリーペーパーの創刊10周年を記念して公募したもの。小難しい身体や健康のことを優れたビジュアルで、いや、曰く「こだわりぬいたクリエイティブで」見せる・読ませる・伝えるというのが売りらしい。採用の経済的対価10万円にして応募総数671点を集めており、メディアとしての知名度の低さも考え合わせれば大健闘といったところで、この冊子、デザインの世界ではちょっと気になる存在、なのかもしれない。
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コンセプト
眠っているように見えても実はちゃんと眠れていない[不良]がモチーフ。コントなどで見られるように、閉じた瞼に見開いた目を描いて、かわいい枕、ファンシー調のカラーリングで明るくインパクトのある写真をイメージしています。こんな状況の世の中なので、ステレオタイプに笑えるものを心がけました。
受賞コメント
昨年の夏、「この面白い冊子知ってる?」と知り合いの方から教えてもらったのが『ヘルス・グラフィックマガジン』でした。その時「こういう仕事がしたいね」と話しておりましたので、表紙デザインアワードに迷うことなく応募させていただきましたが、まさか栄えある大賞にお選びいただけるとは!誠にありがとうございます。これからも、健康への知識が得られ、見た人が笑顔になる『ヘルス・グラフィックマガジン』を楽しみにしております。
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えー、そうかなあ。原案では、ぱっと見て不良が「寝ている」ようには見えない。「かわいい枕」も「ファンシー調のカラーリング」も、十分に表されてるとは言えないでしょ。
ついでに言えば、完成版も「かわいい枕」という感じは持たないけど、ツルは。(陽光が燦々と降り注いでいるのも何かしら意味があるとは思うのだけれど、それがこの際必要な要素だったかということになると・・・??)
審査員の講評は以下のとおり。
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小島よしお
すごく考えさせられる作品でした。はじめは「ダジャレか」とスルーしていましたが、よくよく見ると「なぜ目を描いてるんだろう?」など、見ている人をいろいろと考えさせる案でした。見た物をそのまま受け取るのではなく、見た人が何を感じるかと問うてくる作品だと思いました。「こんな見た目だけど、この人は本当に不良なのか?」と考えを巡らせるうちにこっちが眠れなくなってきました(笑)
百々 新(ドド アラタ)
どの表紙アイデアもとても個性があって選考させていただき面白かったです。大賞作品はある意味一番「よくわからないもの」が選ばれたと思います。「睡眠不良」というテーマに対して、日本人にとって「ステレオタイプな不良」のビジュアルが混ざることで、見る人に不可解さを与え、受け手が自由に思考できる面白さがある作品だと思いました。これまでの表紙とは少し違う作品になるのでは、という狙いも含めて選定しました。
門田伊三男
一見ベタなアイデアに見えますが、ファンシーな枕に不良が横たわっている違和感や、「睡眠不良」なのに寝てるな、目の落書きは誰が何のために描いたのか、などと色々いろいろな妄想が膨らみました。審査員との話し合いの中でどんどん気になる存在になっていき、最終的に大賞を獲るというダークホース的作品でした。審査の現場もすごく盛り上がりました。
堂々 穣
アートディレクションを行うという立場から見て、最終的な仕上がりのイメージがスッと湧く作品でした。そのビジュアルに「睡眠不良」というタイトルが乗ったときの絵と言葉の絡み合いや、読者に届いたときの破壊力、それでいてツッコミどころがあって話題にもなりそうだなと感じ、選ばせてもらいました。
北島直子
とても白熱した議論を交わすことができてよかったと思います。「不良」を題材にした案は他にもたくさん頂きましたが、ファンシーな枕と不良のギャップ、ストレートな睡眠中の不良、にもかかわらず目を描いているという不思議さが興味深く、こちらの作品を選ばせていただきました。
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ツルは見た目の第一印象で、剃り込み入れたリーゼントのにーちゃんと「不良」という言葉が結びつかなかったので、平成期にブレークした高学歴系裸芸人が「ダジャレか」と言う意味が初めわからなかった、逆に。一つには、原案にせよ最終版にせよ、人物が歳を食い過ぎてるからだと思いまス。これじゃ「不良少年」じゃなくて「不良青年」じゃねーかよww。
「不良」という単語の令和初期段階における死語度も一度測っておきたいものである。
(でもそんなの関係ねぇ!)
因みに門田伊三男はこのフリーペーパーの編集長です。「前職が広告制作会社でアートディレクターをやっていたので、デザインは私自身の専門領域です」なのだそうで、「以前の会社では、車、化粧品、お菓子などさまざまな広告を手がけていました」のだそうな。はあん、なるほどぉ。
(審査員特別賞)
ソウダ ミク
(優秀賞)
松田 瞳
佐々木せいな
四本拓也
粥田かな / akoya
原木雄地
正直言って、入選作品の多くは「睡眠不良」ではなく「睡眠不足」のビジュアルになっているような気がしました。
でもそれは2014年4月、既にVol.13で取り上げ済みだったのだよ。
はい、次。ユーモア系からもう一本。
リデュース・リユース・リサイクル推進協議会
2021年度 3R推進ポスターデザイン
(佳作)村上正剛(東京都:グラフィックデザイナー)
昔「リサイクル推進協議会」と呼んでいた団体で、法人格は持ってないみたい。事務局は「一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター」というところが務めていて、こちらも公益財団法人ではないってところが意外。
で、「工場、工事現場、オフィス、店舗などのビジネスの現場や公共機関等において、廃棄物の3R推進を呼びかける啓発ポスター」という性格づけです。
いいですか?ご家庭用ではないんですよ(超微伏線)。
この手のポスターにありがちな、3Rの各要素をビジュアル化するところに堕してしまわなかったのはさすがと思う。しかし、なんかあんまりいい印象じゃありませんね。関西人はこれ見てどう思うだろう、というより、よその土地の人から見た「関西人」のイメージで押し切っちゃったというところが。同じネタであっても、地元関西人に作らせたら何らか違うモノになりそうな気がする・・・(例えば塩崎一族?爆)。
因みに村上は近畿圏ではなく広島県の出身である🌀🌀、1968年生まれ(大伏線)。
ああ、そうか!漫才コンビの絵面が、あまりに「昭和」的過ぎてリアル感がないんだ!見た人の頭の中にある(であろう)「吉本お笑い芸人」のイメージに倚りかかり過ぎていると言えるかな。
この年は特に、入選作品に顕著な傾向があり、動物とダジャレを組み合わせたものが多く見られた。
(最優秀作品)
田村貞夫(東京都:デザイナー)
(佳作)
南雲優花(群馬県:伊勢崎市立境北中学校)(※ パンダ;「ぼくはいらないンダ」等)
梶 歩乃花(静岡県:静岡県立御殿場高等学校)(※ タイ;「減らしタイ」等)
森 雛里(兵庫県:兵庫県立姫路工業高等学校)
小畑咲良(兵庫県:兵庫県立姫路工業高等学校)
根本 菫(茨城県:つくばビジネスカレッジ専門学校)
國府田寧々(茨城県:つくばビジネスカレッジ専門学校)
渡邊桃香(茨城県:つくばビジネスカレッジ専門学校)(※ ネズミ/Rat・タヌキ/Racoon dog・ウサギ/Rabbit)
金松瑞季(愛知県:あいち造形デザイン専門学校)(※ アルパカ;「暮らしを守る3R(アル)パカ」)
宮土八咲(大阪府:大阪デザイナー専門学校)
大野紗和(神奈川県:町田・デザイン専門学校)
中西 功(奈良県:帝塚山大学)
氏原陸大(神奈川県:湘南工科大学)
村上正剛
うるめ(千葉県:グラフィックデザイナー)
石澤修一(神奈川県:グラフィックデザイナー)
宮城秀美(沖縄県:有限会社沖縄マーケットプランニング)
佐々木美樹子(三重県:会社員)
曽雌悦次朗(埼玉県:フリーター)(※ サイ;「サイ小限」等)
國枝芹奈(神奈川県:株式会社アン・デザイン)
金子明日香(東京都:コンサルタント)
全21点中、5点。若い世代に集中しているのが気になる。
因みに「曽雌」という珍しい姓は「そし」と読むらしいです。
まあ、前年度までにも;
・ネコ(「捨てニャイで」等)
・ペンギン(「みんなでいっしょにやりまペン?」)
・イルカ(「それ・・・いるか?」等)
・ハムスター(「リヂュースター」等)
・カエル(「ツカエル!」等)
・サル(「貰わザル」)+サイ(「サイ利用」)+カエル(「作りカエル」)
・シカ(「ゴミを減らすシカ?」等)
・トリ(「無駄なゴミをとりのぞく」等)
・カモノハシ(「もっと減らせるカモ?」等)
・ゾウ(「ごみを減らすぞう」等)
といった同工異曲ネタがてんこ盛りだったけれども、2022年度版になるとこの傾向はパタリとやんだので、まあ選考において特定の意思が働いていたということでしょう。毎年のルーティンイベントとして漫然と公募を行ってきたという証しでもあろう。
ここからはおまけです。
村上は「3R」に「スリーアール」とルビを振っているけど、ツルは今まで「さんアール」と読んでた・・・。で、上記の資源・リサイクル促進センターのサイトにも、はたまた環境省地球環境局(「地球防衛軍」みてえだ)のサイトにも「スリーアール」と出ている・・・。ご存じでした?
実は似たような概念は他にもあって、
「Refuse」を加えて「4R」、
「Repair」を加えて「5R」
あたりまでは知ってましたが、「7R」、「10R」などと称するものもあるそうな。「LGBTQIA+」みたいなもんかしら💣💣💣(cf. 2020.11.28「草の根分けて探し出してまいりました:五本目」)。
さらに脱線するけど、この手のやつで最も数が多いのはどのぐらいだろうと思って深掘りしてみると、次のものはなんと両手に余る「18」である。
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(2021.09.24 省エネの達人 コラム Vol.198 抜粋)
環境への取り組みは18Rへ
3Rから始まった取り組みは、今や18Rにまで広がっています。 ここで6番目から18番目まで一気にご紹介します!
⑥ Reform(リフォーム=改良する):着なくなった洋服などを作り直す。
⑦ Rebuy(リバイ=再購入する):リサイクルされたものやリユース品を積極的に購入または利用する。
⑧ Return・Returnable (リターン・リターナブル=戻す):空き瓶や、使わなくなったスマホなどを購入先に返す。
⑨ Refine(リファイン=分別する):ごみは分別して捨てる。
⑩ Regeneration(リジェネレイション=再生品):再生品の使用を心がける(再生紙など)。
⑪ Rethink(リシンク=再考する):自分にとって本当に必要か考える。
⑫ Rental(レンタル=借りる):カーシェアリングなど、必要なものを所有せずに借りる。
⑬ Right Disposal(ライト・ディスポーザル=正しく捨てる):ルールに合わせてごみを捨てる。
⑭ Remix(リミックス=再編集):製品を作るときに再利用できるものと組み合わせる。
⑮ Reconvert to Energy(リコンバート・トゥ・エナジー=エネルギーに再変換する):ごみ処理の熱をエネルギーにする(温水プール)など。
⑯ Recreate(リクリエイト=楽しむ):自然を守りながら楽しむ。
⑰ React(リアクト=響き合う):自然のなかで楽しめるよう行動する。
⑱ Restore(リストア=復元する):壊れた自然を復元させる活動をする(植樹・植林やごみ拾い)。
皆さんは、いくつご存じでしたか。また、取り組めているものはあったでしょうか。これらの知識や行動がどれくらい環境を助けているかを考え、今後のエコ活動の参考にしてください。
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BSテレビ東京で2017年6月まで放送されていた番組のサイトです(コラムだけは2022年6月まで継続していた)。
もー、怪しさと胡散臭さの満艦飾ですわww。詳しくすればするほど焦点が分散してボケていく感じ。言葉遊びもほどほどに。
あ、超微伏線の種明かしを忘れてました。
本公募の趣旨は「ビジネスの現場や公共機関等において」の啓発だから、必ずしもルビは必要ではなかったんじゃないの?てな話で。
(続く)
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